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国際オリーブ協会(IOC)「オリーブオイルと健康」より


私たちは脂肪を生のまま摂取するとは限りません。多かれ少なかれ加熱して摂取するのが普通です。加熱温度はスープの場合の100℃から揚げ物料理の180℃以上まで広い範囲にわたります。したがって脂肪が熱による損傷を受けているかどうかを確かめることは極めて重要です。

 Varelaらは揚げ物料理について一連の実験を行い、食物内の温度は食物中の水分が完全に蒸発してしまうまでは実質的に100℃に保たれていることを証明しました(244)。水分がほとんど全部蒸発してしまわなければ加熱された脂肪は食物に浸透しませんので、食物が直接加熱される時間はごく限られたものです。このことから、揚げ物料理は他の料理と比べて食物の損傷が同程度、または場合によっては少ないとすらいえます。加熱によって脂肪に生じる変化については、何時間も高温で加熱した場合の変化と家庭で普通に揚げ物をした場合の変化は明確に区別する必要があります。

トリグリセリドの加水分解後に起こる主要な変化は脂肪酸の自動酸化により引き起こされます。この現象は酸素分解反応と密接に関連しています。すなわち高温になると酸素分解反応が起こり、脂肪酸は周囲温度に応じて自動酸化するので、これらの反応は温度が高ければ高いほど顕著になります。実際のところフリーラジカルの連鎖反応が生じることになりますが、この反応には触媒作用も関わってきます。これらの反応は脂肪の不飽和度が高いほど活発になりますし、酸化促進物質が存在すればなおのことですが、抗酸化物質が存在すれば阻害されます。


飽和度の高い動物性脂肪も自動酸化します。これは動物性脂肪に抗酸化物質が欠如しているからです。種子油には抗酸化物質が含まれていますが、不飽和度が高いために自動酸化します。一方オリーブオイルは非常に安定しています。これは、不飽和度が種子油より低いうえ、α-トコフェロールやフェノール類などの抗酸化物質を豊富に含んでいるからです。さらに、最近の報告ではオリーブオイルの不けん化成分の一つである5-アベナステロールが高温域において抗酸化物質としてとして作用することが示されています。オリーブオイルは5-アベナステロールを豊富に含んでおり、その量は精製を経ても他の食用油より多いようです。(246)

オリーブオイルが高温に強いのは、抗酸化物質に加え、オレイン酸を大量に含むからです。実際問題として、高温で最も損傷を受けるのは多価不飽和脂肪酸ですが、その被酸化性は分子中の二重結合の数と共に増大します。飽和脂肪酸が高温で酸化する速度は非常に遅いわけですが、その速度を1とすると一価不飽和脂肪酸は10、二価不飽和脂肪酸であるリノール酸は100、三価の不飽和脂肪酸である
γ-リノレン酸は10,000にもなります。(247、248、249)α-リノレン酸の多い油が揚げ油に不向きなのはこのためです。(246)

 油脂は不飽和度以外にも温度の高さ、加熱時間の長さ、揚げる食品の種類、場合によっては触媒の有無などに応じて変性します。また、食材によっては揚げることで成分の一部を失ってしまいます。

 高温に加熱すると油脂には劣化生成物が生じます。これには過酸化物、アルデヒド、ケトン、ヒドロベルオキシド、ポリマー、環状モノマーなどがあります。これらの物質はいずれも人体に毒性を及ぼす可能性がありますが、アルデヒドとケトンは揮発性なので容易に取り除くことができます。またポリマー類は腸内で吸収されにくい性質があります。



熱処理後の油脂に生じる物質は肝臓、心臓血管系、腎臓などに毒性を及ぼす恐れがあります。また、動物の成長を遅滞させることもあります。さらに揚げた食材の栄養価が損なわれる可能性も看過できません。(250)

 油脂の熱酸化によって生じた分解産物の毒性については、これまでほとんど動物実験しか行われていません。また熱酸化実験にしても揚げ油を長時間高温にさらし、場合によっては空気を吹き込むなど、常に極端な条件下で行われてきました。このような実験の結果は参考にはなるものの、そのままヒトに当てはめるには無理があります。

 これまで繰り返し説明してきたように、過酸化現象によって最も大きな物理化学的変化を受けるのは多価不飽和脂肪酸であり、抗酸化物質が存在すれば過酸化現象には歯止めがかかります。オリーブオイルには抗酸化物質とオレイン酸が豊富に含まれていますので極端な高温で長時間揚げ物をしない限り明らかな変化は起こりません。また、ある動物実験では、170℃で2時間加熱した飽和脂肪(バター、ラード)と多価不飽和脂肪(ひまわり油)の摂取によって肝臓が損傷を受けました。しかし、同じ処理をおこなったオリーブオイルでは肝臓には全く損傷が起こりませんでした(251)。ただし、170℃を超える温度で72時間加熱したオリーブオイルでは肝臓に損傷が発生しました(252)。

熱酸化した油は脂質代謝や心臓血管系にも悪影響を与えるようですが、このことに関してこれまでに得られた知見は必ずしも一致していません。Gabrielらは心筋中に脂質を検出し、その原因を脂質代
謝異常に帰しましたが(253)、この現象を他の研究者は追認できていません(254,255,256)。 
また、GrandgirardはGabrielらの実験結果は食材を極めて長時間加熱したために必須脂肪酸が実質的に失われたことで生じたものだとして、強く批判しています(256)。

 
多価不飽和脂肪酸が熱酸化すると心臓血管系に作用して変性を引き起こすようになるようです。この点については、Gianiらの研究が特に興味深いものです。(257)彼は血小板と内皮細胞におけるプロスタグランジン合成を研究するとともにプロスタサイクリンとトロンボキサンのバランスを調べました。バランスは血栓とアテロームの形成に影響を与えるため、重要な意味を持っています。その結果、適切な量のビタミンEが存在する時ですら、熱酸化した多価不飽和脂肪酸を投与すると生体内で過酸化反応が起こり、血しょうトコフェロール値が下降することが確認されました。血小板のトロンボキサン産生と大動脈内皮におけるプロスタサイクリン産生がいずれも低下したことは特に重要であり、このことはエイコサノイドの合成、そして究極的にはアテローム性動脈硬化の発症に過酸化脂質が深く関与していることをさらに裏付けるものです。

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